「恭ー子ちゃーんっ。あーそーぼっ」

低い男性的な声に不釣り合いな口調に眉間を寄せながら恭子は戸をあけた。
もう見慣れた陰陽師の男がそこに立っていた。

「白郎……」

「よ」

絹のように白く細かい肌。刃のように鋭く妖艶な魅力を持った双眸。黒髪に黒いスーツ。
にじみ出る妖艶な何かは、初めて出会ったときに強く恭子を惹きつけた。

「何の用……?」

「俺とデートしよう」

そしてこの男の言動はいつも突拍子のないもので、恭子はこの男に何度も驚かされた。
今回も同じように目を丸め、そしてすぐに目をそらし顔を真っ赤にするほどうろたえた。

「そっ、そんなことは……」

「秀明が遊園地に行きたいってぐずりだしてな。……一緒に来てくれないか? 遊園地苦手なんだ」

「……なんだ、そう言うことか」

期待した自分がバカらしい。目の前の男はそういう男だったと改めてため息をついた。
その反応に、男、白郎は意地悪小僧の様な笑みを浮かべる。

「俺と二人っきりのデートの方が良かったか?」

「……バカ言うな」

「で、どうだ?」

白郎の誘い。恭子はうなづいた。とたんに白郎は笑う。じゃあ秀明を連れてくるとそのまま慌ただしく出て行った。


花宮白郎。陰陽家系の家元であり、恭子の人間で初めての友人だった。
そして初めて心を奪われた人間でもある。