「…………」

店に戻ると、秀明が入り口で立っていた。
その姿を見たとき、陽は駆けより、ぎゅっと抱きしめた。

突然の行動にその場の全員が目を丸める。秀明が驚いてはがそうとしても、陽は放そうとしない。ぎゅっと抱きしめたままだった。

「顔を見たら、素直じゃなくなると思うから……このままでいさせて」

その時、陽は言った。抱きしめる手は、わずかに震えていた。


「寂しかった。一人で、ずっと待ってた。私の事どうでもいいって思ってるのかもって、怖くて、素直になれなかった……」

震える声。秀明は初めて聞く陽の飾りもなにもない気持ちを聞き、想像もしていなかったように、目を丸めていた。

「父さん、ごめんなさい。素直じゃなくて。……私、私……」

一段と、抱きしめる手が強まる。次の言葉が出てこない。
そんな陽の頭に優しく手を置き、秀明は囁いた。

「好きだよ、陽。……気付いてやれなくてすまなかった」

優しい声が陽に向けられた。とたん、嗚咽が漏れ出た。抱きついた手を放して、陽は泣き崩れる。言葉にならない声で泣いていた。


「……帰ろう。今度からは、早めに帰るから」

「本当?」

「ああ」

ゆっくりと優しく秀明は言葉をかける。陽はただ泣いていた。子供の様に、初めて秀明に泣きつき、久しぶりに素直に気持ちを口にできた。

「なにか、してほしいことあるか?」

そうといかけると、陽は、震える声で答えた。

「一緒に、ご飯食べたい……。おやすみって、言いたい……。おかえりって、言いたい」

「うん、うん……」

そのまましばらく、陽は泣きじゃくり、秀明はそれを聞いていた。

長くもつれた関係も、ようやく、元に戻れた。
親子としての、形をもてた。