「自分勝手だよな。自分一人で全部抱え込んで、周りに何も言わず、自分一人で苦しんでさ……」

「勝手だよ……」

冬矢が呟く。それに陽は答えた。ボロボロと涙をこぼし、冬矢はその横に座っていた。
秀明は何も言わなかった。誰にも何も言わずにここに戻ってきてから毎晩、鬼を狩っていた。自分を何度も責めて、自分の弱さを一人で責めていた。

「でもさ、兄貴はああいう奴なんだよ。分かってやってくれないか?」

「……?」

涙ぐんだ目が冬矢に向けられる。紅い瞳は昔を懐かしむように細み、口元に微笑みが浮かぶ。儚げな表情が美しかった。

「陽に隠す事が、一番いいと思ってたんだ。自分一人で処理したがるんだ。周りに荷物を預けるのが下手なのさ。それが裏目にでるんだろうけどな」

「……でも、父さんが苦しんで、私一人笑ってるなんて……」

「陽だって苦しいだろ。兄貴の苦しみを理解できなかったことがさ。兄貴もまた陽の気持ちをまだ理解できてないんだよ。鈍いんだから」

冬矢はにこりとほほ笑んだ。陽は、涙をぬぐう。

「陽の苦しみも、陽の寂しさも、直接伝えなきゃ、わかんねぇんだ。だけど分かれば、その気持ちを必ず受け止める」

「……本当?」

ああ、と冬矢はうなづく。だがそれでも、陽の暗い表情はぬぐえていない。

「怖がらなくていい。兄貴は陽の父親なんだから。子供が親に甘えて何が悪い」

「……わがまま、言っていいの?」

「どんどん言え」

冬矢の言葉が、すぅっと、陽の胸に沁み込んだ。そして、陽は立ち上がる。
涙も不安もぬぐい去り、しっかりとした足で立っていた。

「帰ろう、冬兄」

「そうだな……」


二人は、店へと戻った。
改めて秀明に感情をぶつけよう。今度は、怒りではなく怒りの奥底の感情を。