「じゃあ、見つけてみるから」

そう言って、洋子は目をつむる。すぐに彼女の周囲に小さな管狐たちが集まった。管狐を使役することが洋子の神通力。そして一匹の管狐が空へと登って行った。

「……五の子が行ったよ。あの子ならすぐに見つけられる。ちょっとだけ待ってね」

「……便利、ですねぇ……」

陽はたびたび舌をまく。妖怪の持つ妖術などはいろんなものがあり、人知を超えている。予想もしない力を彼らは持っている。それをいろんなことに活用する人だっている。それを守るために、冬矢はこれから百鬼夜行を受け継ぐ。
改めて陽は人と妖怪の違いを感じた。



「今はこうして朝帰りだけど、京都にいた頃はむしろベタベタだったのにな……」

ぼそりと、陽は呟く。京都時代の事は彼女にとっては大切な思い出だった。
だが阿弥樫町は父と母と三人で暮らした大事な一年の思い出が残る場所。秀明にとっては産まれた町であり、いい思い出も嫌な思い出もある。
陽もまた産まれた当初、母もいた幼い時の美しい思い出があるが、一人ぼっちの虚しいい記憶に塗りつぶされ、奥へと潜むだけとなっていた。

そうして昔を懐かしむ陽を横目で洋子は見ていた。何か言葉が出そうになるのを、必死にこらえ、戻る管狐を待った。