「……」
秀明は橋を渡っていた。といっても、川を渡す小さな橋ではなく、海岸と小島を結ぶ大きな橋。そこに続く島もまた秀明は良く知っている。沖に近いため町人には人気の釣りポイント。などという情報ではない。
「よ、餓鬼ども」
にこっとほほ笑んで秀明は小島に足を踏み入れた。踏み入れて早々視界に入った存在に、挨拶をかける。声をかけられた方は、びくりと肩をはねた。
「あ、あぁぁあっ」
額に生えた小さな一本の角。肌の色は赤かったり青かったりと様々ある。背丈は低く季節に会わずこしみのだけの服。見るからに子鬼だ。
「早速……狩らせてもらう」
ずっと、伸びる手。その手には無数の黒い布が巻かれていた。その黒い布には黒い札と同じ紅い字が書かれていた。
「うぁぁあああああっ!」
子鬼の悲鳴が、岩島に響いた。
町の人間はその場所をただの釣り場所ととらえている。だが、秀明はこの島のもう一つの意味を知っている。忘れたこともない。
島の名前は町人の中では忘れられている。だからこそ勝手な名前もつけられている。
だが本来の名前は、
『酒呑島』
伝説の三大悪妖怪とも言われる酒呑童子がすむと言われていた島。
この島には、鬼が住んでいる。鬼だけの島。
鬼ヶ島に、秀明はいた。