「お願い? もしかして、兄貴のことか」

「そう。もう今年は怒ったの。絶対見つけて、殴ってやるんだから」

怒り心頭なのは、醸す空気からもうかがえた。冬矢も止める理由もなく、従業員を見渡して考える。探索に向いているのはまあいるが誰が適任だろう。

「……カラス、いけるか」

「ああ、わかった」
「私が行く!」

それをやっと決められた時、指示を送った。それに確かにカラスは答えようとしたのだが、それに洋子が割り込んだ。予想もしていない乱入に冬矢はしばらく停止するが、すぐにはっとして洋子の手を引いた。

「お前、正気か?」

「正気よ。だって、陽の力になりたいじゃない」

ひそひそとだが少しとげのある声で話しかける。それに洋子は平然と答えた。

「お前の本当の目的は兄貴だろ」

「そうね。……でも、良いじゃない」

「よくねぇよ。兄貴は陰陽師、お前は妖怪。それは分かってるだろ」

「それ、貴方が言う事?」

洋子は何も物怖じしない。それに、行くなといっても、今回ばかりは引いてくれそうにない。この秀明のことに関してだけは、洋子は冬矢の言葉に強い意志によって背く。それを冬矢は苦く思っていたし、危機感を感じていた。とにかく次の言葉を探すが、それよりも先に、洋子が耳元で囁いた。

「人の色恋に首をつっこむのかな? 童貞くん」

「あ、なっ……うっ……」

キラーワード。こういう場面には毎回のように洋子はこの単語を持ち出した。その言葉を出せば、冬矢は言葉を失う。顔を真っ赤にして、言葉にならない声をただ漏らしている。
にこりと洋子は微笑んだ。

「陽、行こう」

「あ、はい」

陽が冬矢の異変を気にかけるものの、洋子に手を引かれてそのまま店を出た。