「もう日付も変わったぞ」

鈴の様の声が、秀明を起こした。寝ぼけ眼をこすりつけ休息を終えた秀明が目を開けた。目の前にはいつものように見慣れた黒髪と紫の瞳。紅い髪紐。恭子がいた。

「別に膝枕する必要ねぇのに……」

「……昔を思い出しただけだ」

「親父か」

「また日があれば話すさ」

そう言って恭子は立ち上がり、部屋を出た。秀明はまだ寝ぼけた目を覚ます。時は深夜。そろそろ出発すべきだろう。恭子のおかげで十分睡眠はとれた。

「朝まで……鬼退治だ」

荷物を手に取る。いつもの札は、そこにはない。代わりに一振りの日本刀と、黒い札がその手にあった。秀明の顔から、人間らしさは消え、瞳はぎらついた。



その頃で陽は心当たりもなにもなく、アテもなく、居酒屋『百鬼夜行』に向かった。秀明の事をよく知るのは冬矢しかいないと、それしか考えられなかったから。それに、人の居場所を探る方法なんて、彼らにはたくさんある。

「冬兄、お願いがあるんだけど」

陽は迷わず、店の戸をあけた。