「いらっしゃいませ」
いつものように、『魑魅魍魎』が開店し、客が店内へと入った。迷わず彼はカウンター席に座り、常連の様に『いつものやつ』と注文した。
「珍しいな。鳥介君」
「部活も引退したから、早く来た」
客は、閉店間際によく来る常連。陽の部活の先輩で、洋子とは同級生の少年。端正な顔立ちとどこか冷めた物言いが印象的だ。
「そう。……あれ、髪切った?」
「それ、今ので5回目。……まあバッサリ切ったから言われても仕方がないだろうけど、そんなに髪を切るのがいけないのか? 似合ってねーわけじゃねぇだろ」
「まあ、髪の毛長い方が似合ってなかったから。今のほうがすごく似合ってるよ。……また告白されるんじゃない」
「……どーでもいい」
彼は学校内でかなり人気だった。成績優秀、スポーツ万能、眉目秀麗。文武両道、才色兼備、天は二物も三物も与えてしまった完璧人間。そんな彼は学校内でも学校外でも告白を受けることが多かった。男である冬矢でされも少し見とれることもある。
「それよりさ」
「ん?」
唐突に、彼が言葉を出した。彼の方から話題を吹っかけてくるのは珍しく、少し冬矢は身構えた。彼はふと、店の隅に視線をよこす。
「鳥かご、どうしたわけ? ないんだけど」
「ああ、なんだ。そのこと? 撤去したよ。掃除している時に逃げられちゃってさ」
アハハ、と冬矢は笑う。彼は怪訝そうに首をかしげるだけだった。