「…………」

すずめを出迎えながら、冬矢は考えていた。
先ほどまで烏丸に散々苦言を吐かれたのだ。過保護すぎだとかすずめの気持ちを考えろだとか、うざったいほどに。冬矢にとってまだすずめは幼い妖怪。力の弱い守らなくてはならない存在であったのだから、彼女を危険の多い外に出す事は許さなかった。



「…………すずめを送っていただき、ありがとうございます」

深々と、冬矢は倉元に頭を下げる。だがすぐに手はすずめの腕をつかみ、中に引き入れようとした。それをなんとか倉元が慌てて制した。

「あの、実はお話がありまして……すずめちゃんを昼間には外出させてもらえませんか?」

「…………。お巡りさん、それは貴方には関係のないことです」

約束通りに、倉元はすずめの外出を切りだした。しかし、それを冬矢は一蹴した。今度は関係のない警官にそう言われては、あまり気分もよくない。

「ですが、外出を極端に禁じるから、こうしてすずめちゃんは外へ出たのだと思います。もう少し自由にさせなきゃすずめちゃんの為にもなりませんよ」

「……貴方にすずめの何が分かるんですか? ……少し派手な喧嘩をしただけです。すずめ、早く入れ」

機嫌の悪い冬矢。そのまま半分命令口調ですずめに言葉をかけた。百鬼の主からの命令は絶対遵守。それが百鬼夜行の掟。だからすずめは逆らうことができずにいた。だけど……


「やだ。私、外に出たい!」

「!」

命令違反。初めて冬矢の命令を拒絶した。無理やりに百鬼の掟を破ったために、瞳には涙がたまっている。だがそれでもまっすぐ冬矢を見据えていた。突然の命令の拒絶に、冬矢は瞬き、戸惑う。今までこんなことはなかったはずなのに。

「すずめ?」

「私だって外に出たいよ! 友達もほしいもん! 外に出て風に当たりたいもん! カラス先生みたいに、仲間とおしゃべりしたいんだもん! ずっと閉じ込められるなんてまっぴらよ! 外に出してよ!」

まくしたてるように、涙を散らしながらすずめは叫ぶ。冬矢はもう固まっていた。倉元はなんとか興奮状態のすずめを落ち着かせるが、すずめは泣きじゃくるだけだ。

「……これが、すずめちゃんの気持ちです。彼女の気持ち、汲んでいただけませんか?」

倉元の言葉が、冬矢の中に、突き刺さった。