「でも外に出たいんでしょ」

「うん。すごく……。でも……」

「でも?」

自転車をこぎ進めながら倉元は問いかける。その言葉にすずめは答えるが、どこかしりすぼみの声。気になって倉元は聞いてみた。

「さっきみたいに危険なこともあるから、心配するのも分かる。それに冬兄は私にとっては恩人みたいなもので、できれば……喧嘩はしたくないなって」

「ちょっと迷ってる?」

「ちょっとだけ」

そう言いながら、すずめは前に座っている倉元をつかむ手の力を強めた。言葉と裏腹な気持がすこし感じられた。

空は暗く、深く、黒に覆われている。その中で、一際輝く星。その横で、薄くほのかに光る星。それを見上げ、倉元はすこし口元に笑みを浮かべた。

「じゃあ、俺が家族を説得して、昼間に出してもらえるようにしようか?」

「えっ?」


突然の予期していない、だけれどもどこかで期待していた言葉に、すずめの顔は呆ける。しばらくして言葉の意味がつかめた時、その声は弾んでいた。

「ホントっ?」

「うん。本当だよ。すずめちゃん、俺の妹に似ているからさ、なんとなーく、世話をやいちゃうんだよね」

「そうなんだ」

外に出してもらえるかもしれない。その可能性に、心と声は弾んでいた。魑魅魍魎の主として、百鬼夜行を受け継ぐ跡目の冬矢に、百鬼の一員でしかないすずめは逆らうことができない。だからこそ、こうして喧嘩しようとも結局は冬矢の言いつけどおりに店にこもるしかない。だけれど、百鬼もなにも関係ない部外者からの力なら、外に出られるかもしれない。すずめの頭はそれでいっぱいになり、倉元の妹のことにあまり言及することもなかった。


「おっと……言っている間に着いたみたいだね。でも、まず最初に謝るんだよ」

「分かってるって! ありがとね!」

いつしか自転車は店が見える位置にまで来ていた。倉元はそこから店の前へと自転車を止める。その間に、すずめに注意をしておいた。外に出れるかもしれないとあってか、最初の様なむくれた顔をせず、すずめは子供の様な笑みでそれに答えた。


店の前には、冬矢が立っていた。