自転車に乗って、風を感じながら、警官はすずめに話しかけた。初めは答えてくれやすい家族構成の事から。

「5人」

「へぇ、賑やかなんだ。俺一人暮らしなの」

「聞いてないよ」

むくれたすずめにとっては、その会話も短く切られる。それでも警官は話を続けようと自分の話を持ち出すが、それもまたすずめに切り捨てられた。

「あ、名前言ってなかったよね。俺、倉元信也。よろしく」

「……だから?」

「そうむくれなくてもいいじゃないか。家に着くまで時間があるから、世間話でもしておこうよ。沈黙って気まずいんだから」

「……すずめ」

あまりにも会話しようと必死なので、名前だけは教えた。その反応があっただけで十分なのか、倉坂の声は少し明るくなった。

「すずめちゃんかぁ……いい名前だね。可愛いよ」

「……そうなんだ」

夜雀だからすずめ。そんな安直ネーミングを褒められてもそれほど嬉しいとは感じなかった。その芳しくない反応にもまた倉元は首をかしげる。

「すずめちゃん、喧嘩しちゃったの?」

「……外に出してくんないんだもん」

そこで口から出た言葉はあまりにもストレートだった。ど直球の質問にちょっと戸惑うも、すずめはそのまま理由を言った。それほど気にはしていない。むしろ自分が外に出してもらえないという理不尽さを分かってほしいから言った。

「あー。箱入り娘ってやつ?」

「カゴだけどね」

「ん?」

確かに箱入り娘には違いないが、実際閉じ込められているのはカゴの中。それをぽつりとこぼしたが、すずめは何も言わなかった。ただそのまま夜風を肌で感じる。

「でもこんな夜中じゃ反対するのは仕方ないよ。昼はだめなの?」

「ダメ。いじめられるからって」

そう言って、すずめは以前の自分を思い出す。妖力が少ないために山から逃れてきたこの町。そこでも妖怪であるはずなのに、ただのカラスにちょっかいをかけられたりして、ボロボロになっていた。そこを、恭子に助けられなければ、今はどうなっていたことか。だがそれは昔の話だ。
烏丸がこの町のカラスを支配してからは、カラスにいじめられることもなく、危険はほぼないと言っていいくらいだ。なのに、冬矢は過保護からか、それでもすずめを外に出す事を渋っている。