「ぅわあ~
やっぱここのアイスはおいしい…」

「うん、うまいね」

みんな違う味をそれぞれ選んだ。


「唯のそれ美味しそうだね」

「食べる??」


唯がアイスを一口スプーンですくうとあたしの口まで持ってくる。


「うん!!」


あたしは頷くと
アイスを食べた。

「あ…うまい」


なんか、懐かしい味がする。


「心…??」


「ご、ごめん
美味しすぎて…」


あたしはどんどんアイスを口に運ぶ。


「ごちそうさま」

「美味しかったね
やばっ、もうこんな時間!?
もう行くね、バイバイ~」

唯は慌てて店を出て行った。


「唯って今日
塾なんだな…」

「そうだね~」

あたしと直人は店を出て帰ることにした。





「そういえばさ、今日
あたし倒れた時ベッドまで運んで大変だったでしょ??」


「…お前を運んだの俺じゃない」

えっ…
だって

「佐藤だよ…」


直人は立ち止まりあたしを見た。


「あいつが心を保健室のベッドに運んだんだよ…」


「でも、茜くん直人がって」

直人は目を逸らして俯いた。

それから顔をあげて
笑った。


「明日、お礼言わなきゃな!!」


「直人…そうだね」

あたしは小さく頷いた。







茜くんにあったら
今日はお礼言わないと…


「こ~ころ、おっはよう♪」


唯があたしの背中を軽く叩く。


「唯、おはよう~」

唯は顔を近づけて来て口元が少し緩んだ。

な…何!?
この顔はきっと…

「…いきなり何?」

考えてた事が見事に的中した。

「んふふ、心…あたしがいなくなってからなんかあったでしょ♪」


唯は自信に満ちた笑顔であたしの肩を揺さ振る。


まぁなんとなく言ってくるだろうって思ってたんだけど



「あったよ…最悪な事実を知ったよ~」


「はははっ、最悪ねぇ…
その最悪な事実をあたしに教えなさい」


あたしは唯に昨日の、直人と茜くんについて話をした。


「ふーん、茜くんがねぇ
心と茜くんの関係を知りたいけど心が言ってくれるまで…待っとくよ」


そっか…
唯は知らないんだよね…


「唯…あたし話すよ、聞いてくれる??」


「当たり前じゃん」


唯は笑った。












唯は真剣な顔をして耳を傾ける。

「あたしね、8歳から下の頃の記憶が無いの…」


「えっ!?」

唯は目を見開いた。

まぁ、普通はそんな反応するよね…


「目が覚めたら、
病院で大人達が真剣な顔をしてなにか話てた」


「うん」


唯は悲しい表情をする。


「でも、茜くんが隣にきて、『心ちゃん、大丈夫だよ』って笑顔で呼んでくれたんだ…」


「茜くんが!?」


唯は信じられないという顔をした。

はははっ
今じゃ考えられないからね…


「そっかぁ…心、大変だったね…
辛い思いして生きてきたね…
辛いことがあったらあたしにいいなよ~」



「あ、りがと…唯」


優しくされると
泣きたい気持ちになる。

唯はあたしをいつも支えてくれる。

涙を堪えていると唯は優しく背中をさすってくれた。











目が覚めた…ー


ここは…
ど、こ??


あたし…


薬品の匂いがあたしの鼻を刺激する。


周りをゆっくり見回すと薄い水色のカーテン、白い部屋、白いベッド。



この風景…
知ってるような気がする



あたしの腕には細い管に何やら変な液が体に入ってるみたいだ…



ボーッとしていると部屋の外で怒鳴り声が聞こえた。


「なんだって!?記憶喪失!?」


記憶喪失??

ってなに…??




あたし…


「自分の名前が分からない…」







「あたし、」

思い出そうとすると頭に激痛が走る。


「ぃったいい…」


痛みで涙が出る。




泣いているとドアが勢いよく開いた。


茶色が入り混じった黒髪で
可愛らしい男の子があたしの隣まで来た。


「心ちゃん、大丈夫だよ」

その子は微笑む。


「あたし、心っていうの??
あなたは何てお名前なの…??」


その子は目を見開いた。



何も言わずあたしに優しく教えてくれた。


「うん、心ちゃん!!
僕の名前は、茜っていうんだよ~」


茜くん…


「茜くんって可愛い名前だね~
これからよろしくね」


「う…ん、よろしくね」


茜くんは寂しそうな表情をする。


「ごめんね、思い出せないの…」



「謝らなくていい!!…これから僕と思い出を作ろう、ね??」

あたしは頷くと
茜くんは笑った。


嬉しいな…






茜くんと喋っていると
大人達や医者が入ってきた。

「心ちゃん、気分はどうかな??」

その人はあたしに微笑む。

「普通です」


あたしは笑ってみせた。

今度は医者の隣にいた人に話かけられる。

「心ちゃん、おじさんのこと覚えてる??」


あたしは首を横に振る。

「ごめんなさい…」

おじさんはあたしの頭をポンッと軽く叩いて笑った。


「大丈夫だよ」


それからおじさんとおばさんが何か話をする。


「悲しいけど、覚えてない方が楽かもな…」

「可哀相に…」


少しだけそう聞こえた。



覚えてない方が楽…??

可哀相って何…??


苦しくなって涙が頬を流れた。









「ろっ…心っ」


「ぅわっ」

あたしは勢いよく顔を上げる。

授業中に眠っちゃってたんだ…


あの夢は懐かしかった…


「な…おと??」


直人はあたしの顔をみて目を見開く。


「なんで…泣いて」


「泣いてなんかいないよ…」


泣いてるつもりはなかった。

なぜか涙があたしの頬を流れ落ちる。


あたし…
なんで泣いてんだろ…


「泣いてるし…
何か、あったのか??
もしかして」


直人は茜くんの方を見る。


「大丈夫、懐かしい夢を見ただけだから…」



あたしがそう口にすると茜くんは勢いよく立って机に蹴りを入れ
教室を出て行った。


えっ…??
あたし何かした…??



「なんだよ…今の…
おいっ」

直人も茜くんを追いかけて教室を出て行く。



「なおっ…と…」








直人Side





俺…
心の何なんだろ…

やっぱり友達か…



あの時思った。


心が倒れて
頭が真っ白になった。

突っ立っていると佐藤が真っ先に心の名前を呼ぶ。

えっ…

佐藤と心って知り合いなのか…??

先生も慌てて心の容態を見る。


それから先生は優しく微笑んだ。
「寝不足からの熱ね、疲労が溜まってたんだわ、もぅ大丈夫よ
先生には連絡しとくわね」

ほっ…

良かった…。


佐藤は普段とは考えられないくらい愛しそうに心を見ていた。


心を見ると泣いていた。

「…ーっ、怖いよぉ」


怖い…??

「こ…」



「心…大丈夫だよ…」


佐藤が心の手を握る。


心はすっと泣き止んだ。


心……
俺、自惚れてた。


心に近いのは俺って思ってたけど…
本当は佐藤だったんだな…


俺は静かに保健室をあとにした。