このまま部屋にいてもすることはないし、また同じ夢を見たらと思うと二度寝する気にもなれず、コーヒーでも飲もうと自販機へ向かう。

ここは私立の名門、碧宝(へきぎょく)学園。良家の子息や令嬢の多く通うエリート校であり、翼はここの学生寮に住んでいた。
家がそう遠くない彼がわざわざ寮に入っているのには深い訳があるのだがここでは割愛する。

「自販機動いてるよな?」
今更ながら不安になった。

真夜中でこそないものの、まだ朝とは言えない時間帯である。自販機の電源を落としているという事もあり得るかもしれない。
しかし、どうやらその心配もなさそうだ。ガコン、と何かが動く音がしているから自販機はきちんと稼働していて、更にはそれを利用している人が居るらしい。

「そこに誰かいるのか?」
翼が呼び掛けてみると、誰かが振り返る気配がした。

「はーい?翼」