「翼…」

自分の名を弾けるような
笑顔で呼ぶ彼女が愛しかった。

「ねぇ…」

振り返ったときに揺れる
ふんわりした緩いウェーブの
柔らかい髪がよく似合っていた。

「あのさ…」

優しく包み込むような
キミの甘い香りが好きだった。なく、汚れ一つない真っ白な天井だった。


陽も差し込まない薄暗い部屋を見渡し、翼は手を伸ばした反動で起き上がった体を再びベッドに預けた。

大きく溜め息を吐き、体を左向きに捻る。
「………またこの夢かよ」

そう、翼がこの夢を見るのは初めてではない。

既に何度も何度も同じ夢を見ていた。

ー当然、展開も覚えている。

それなのに、美月の姿を、声を、笑顔を眼前にすると、夢だとわかっている筈なのに彼女を求めてしまうのだ。

「なっさけねぇなあ、ホント」

翼は苦笑してそう呟くと、頭を掻きながら着替えを始めた。