「行くよ?」

とかずまを振り返ると、足音もさせずに近寄ってきていたかずまの指先が背中に触れた


「ひゃ!……」


日ごろ触れられ慣れないところは敏感で、背中をそらせた


両腕が伸びてきてくるっと体の向きを変えられると、かずまの腕の中

ドレスの生地は薄く、かずまの体温をより近くに感じる


時計の秒針の音を、早まる心臓の鼓動がかき消す


10月になって少し日が沈むのが早い

室内は、ほの暗い




かずまの手が素肌の背中に触れて、耳元で潜めた声を出された

冷たい視線を投げかけられることばかりだから、この突然おとずれる甘さにまだ慣れなくて戸惑う




「今日、行くのやめにしない?」

甘い誘惑

こういう瞬間にかずまからの好意に真実味が出て……


「ダメ、約束してるもん」

揺らぐアタシの理性

どこかで彼の意外な一面をもっとみたい気持ちが現れる


「行かせたくない」

殺し文句

好かれているという事実に舞い上がりそうな心地いい感覚


「働かなきゃ……」

頭の片隅の現実




「大丈夫だって」

「ダメ……アタシの将来が」

「俺がもらってやるから」

「も、もう……そういうこと簡単に言わないで」


かずまのまつげの本数をかぞえられそうな距離

近づきそうで近づかなくて……意識が彼だけに向かっていく