まわりを窺いながら車に乗り込んだ



発進させて少しすると、アタシは横のかずまを横目で一瞬見た



「年上だし、仮にも先生なのに“ちひろ”って呼ばないでよ」

「いいんだよ、俺だけ」



出た、「俺はいい」論


……そうですか……



「携帯出して」

「なんで??」

「番号知らないから」


言い方がほんと、上から目線……


「やだ」

軽く抵抗を見せてみる


「は?」



やばっ、不機嫌かずまに変身した



「何、俺専用の携帯電話でも持たされたいの?

それとも体にGPSでも埋め込む?」


「…………かばんの中に入ってます」


かずまはアタシの携帯を操作して、自分の携帯とリンクさせている

赤信号で止まった時に彼の横顔に目をやると、うつむき加減に伏せられた目とキレイな形の唇……



不意にさっき触れた感触を思い出す



胸がぎゅっと締め付けられるような、そしてそれがすごく恋しいような感覚に陥ってあわてて視線を前に戻すと、信号は青になっていた



「顔、赤いけど」

「え?」



「さっきのことでも思い出した?」

「……別に」



「もう一回したい?」



突然の申し出に、アタシは前を見たまま固まってしまった




横から、小さな笑い声が聞こえて


アタシはちょっとだけ頬をふくらませた