前田さんの隣に座る前に目が合って、手を振った


「マキ」


優しい笑顔で名前を呼ばれる

「ちょっとだけ久しぶりだね」

と前田さんはスーツのボタンを開けながら微笑んだ


「ジャケットお預かりします?」

と手を差し出すと、前田さんは少しアタシに身をゆだねる

そのジャケットを脱ぐ手伝いをすると、新田くんが近くに来ていて彼に上着を手渡した


いつものように「おつかれさま」と乾杯する

たあいもない会話の途中

さりげなくアタシの髪をはらって内緒話をするように耳元で話したり

足に手を置いたりする

あまりにもスマートで、すっとあしらう前に離れていくタイミングが絶妙


女性の扱いに手慣れている

そう感じさせる





前田さんはどっかの会社の役員さんらしく、独身のお金持ち

たまにサラッと「マキが一緒に住んでくれるなら家を買おうかな」なんて発言をする


お店の女の人達は「おいしい!」なんていうけど……

アタシは、男の人に囲われてのうのうと暮らすことなんてできないし


普通の会話を楽しんでいるかと思うと、突然ダイレクトな口説き文句がきたり……


「見て、龍子ママ…帯が苦しいんだよ

ほら、たまにお腹をおさえてる」


前田さんがママを目で示す

アタシがママを盗み見ると、確かにお腹に手をあてて大きく息を吸い込んでいるところだった


くすくす笑っていると、前田さんが思い出したように「あ、そうだ」とアタシの目をのぞいた