前田さんが帰ったあと、もう閉店間際だったけれどもママから他のお客さんの席につくように言われて、その前にとれたグロスを塗りなおしに行った


鏡越しにうしろを通るかずまの姿を見つけてパッと振り返る


突然すごい勢いで振り返ったアタシに驚いたのか少し目を見張ってアタシを見つめるかずま


あ…………


ほんの数日まともに顔を合わせていないだけなのに、なんだか恥ずかしい

ほんとにこの間一緒に食事をした人って、この人だっけ??

ホテルで一緒に夜景を見て

映画を見て

料亭で険悪になって……



そうだ、アタシ達の展開は急すぎて、アタシ自身がついていけてない


エゴイストな彼がまるで怪盗のようにアタシの生活をかっさらっていった


見つめなきゃ、アタシの心を

……どこに向かいたいのかを


 だ け ど


アタシの言葉を待つ彼の表情が少し不安げで、胸がキュッと締め付けられて、手に力がはいってしまう


かずまが呼吸するとかすかに動くシャツの胸元にいっそ顔をうずめてしまいたくなる衝動がチリチリとアタシを焦がす


向かい合っただけで、アタシの感情が抑制されることもなく彼にむかっていくのがわかる


考えたって……答えは一目瞭然


全身が、物語ってる


かずまの手に手を伸ばして、指先を少し握った



「今日、一緒に帰ろ」




やっとの思いでその言葉を口にすると、アタシは指を離して彼の横をすり抜けて行った