カバンの中からオートロックを開錠する鍵を手探りで探していると、タクシーが走り去る音


涙目をまばたきでごまかすと、頬を伝って流れていく


携帯のランプが光っていてそれを取り出した

メール……


前田さんだ


“店が終わって、もし良かったら飲みなおそう 連絡待ってます”


帰りたくない……

そんな思いが一番に立つ


鍵を探すのも忘れて、アタシは路上で一生懸命電話帳から前田さんの名前を探した


……あ…った…


「はいらねーの?」


突然背後から人の声が聞こえて驚いた拍子に携帯が手から滑り落ちた


カシャン……とプラスチックが割れたような音がする


「誰に電話するつもり?」



歩み寄ってきた姿が落ちた携帯を拾って画面に目を落とす



何も言わずに携帯をパタンととじると、手からカバンを奪われた

中から鍵をあっさりと見つけ出してオートロックを開錠する


背後を見ると、タクシーがまだ止まって待っている


かずまはアタシが入るまでドアを開けたまま待っていて、アタシはゆっくりと入っていった


節電のために消えていたエレベーターの電気がパチパチと点灯して音も立てずに扉がスライドしていく



かずまは先に乗り込むと、またアタシが乗るまでずっと待っていた