「マキさん、お約束の方がお見えです」

「うん」

アタシは小声でうなずくとグラスを持ち上げて、底の水滴をおしぼりで少し拭うと隣の男性に挨拶した

「お話すっごく楽しかったです、またご一緒してくださいね」

「マキちゃん行っちゃうの~?」

「ええ、また今度必ず、ごちそうさまでした」


相手のグラスに自分のグラスを軽くぶつける音がひびいて、アタシは立ち上がった

手に持っていたグラスを新しく入ったボーイさんがサッと取ってくれる

「ありがとう」と微笑んだけれど、視線は自分が行くべき場所へと向かっている



奥のボックス席へ向かうと、こちらを見たスーツを着た男性がうれしそうに手をあげた


「前田さん、いらっしゃいませ」

「マキ」

前田さんの横に座ると、顔を見合わせて微笑んだ


「いつものでいいですか?

濃い目??」

「普通でいいよ」

名前の札がぶらさげられたウイスキーのふたをあけると、氷を満たしたグラスに三分の一注いだ