礼苑さんは行ってくるねと立ち上がると、そのままドアに向かって行った。

そのうち開店した店内は、あたしの心とは裏腹に活気づいていく。

隅のテーブルで蓮くんや、馨ちゃんに慰められながら、ぽつんといた。

いつもなら仲の良いキャストたちで盛り上がるんだけど、今日は蓮くんが気をきかせたのか誰も寄り付かない。

まったく変化のない状況に苛立ちを覚え始めたときオーナーが来た。

「はじめまして。紗耶香さんですね?」

「はぃ。」

とても温和そうな40代ぐらいのそのおじさんは、ニッコリと笑いながらも場を引き締めるオーラを放っていた。

「歩夢の居場所を突き止めました。今、礼苑が話をしに行っているところです。」

オーナーの話によれば、従業員の金を借りパクしたというのはデマらしい。

ただ店を飛んだのは本当で罰金という名で、30万という数字が出ていて、どうにも動けないとのことだった。

因縁つけられてるだけというのが真実らしい。

「歩夢は借りパクなんてするコじゃないですょ。」

ご存知でしょう?と笑いかけられた。

あたしは曖昧な笑顔を浮かべながら考えてしまった。