と、目の前の彼女を見つめていたとき




「ごめんね、ありが……」



中川さんが橘くんの手をとって立ち上がろうとしていた。




………っ!!!





パシッ



「…え?」


「君はもう戻れ。
中川さんは俺がつれていくから安心しろ。」





無意識のうちに橘くんの腕を掴み、そう言っていた。





「……お前…会長?
なんで二年が……」



橘くんに思い切り睨まれた。


……俺は何をしているのか。

自分でもよくわからない。



ただ


中川さんに触ってほしくなくて

彼女を保健室につれていく役目は…俺がしたかった。





「いいから、早く行け。
…ちゃんと担任に言っておいてくれ。

ほら、中川さん。立てる?」




負けじと橘くんを睨み返し、中川さんに視線を向ける。


少し戸惑っているみたいで、目をパチパチさせていた。




…“なんで瀬那くんにはそんな態度なんですか?”


そんな言葉が聞こえてくるようだ。




「…ぁ、ありがとうございます。
瀬那くんも、ありがとう。

ぁ、これ。」




立ち上がる前に何やら紙を渡す中川さん。


……笑顔は誰にでも向ける。


そんな彼女が好き。



でも…何かが心を支配している。


どす黒い何かが。




紙を受けとった橘くんは、彼女に笑いかけてから

俺を軽く睨んで階段を上がっていった。




………ふう。


とりあえず、阻止はできた。



…何をやってんだか、俺は。


自分で自分を笑ってから、再び中川さんに微笑んだ。