車の音で判別がつくようになるまで、時間は掛かりませんでした。

勿論、その音が耳に付いた時にはすぐに玄関の鍵を開け、真暗にしておりました部屋に明かりを灯し、貴方がいつも所望しますミルクティを用意する為に、お湯を沸かします。

何と甲斐甲斐しいことか。
私はこんな尽くす女ではなかったのに。

貴方が颯爽と、マンションの階段を上がる音が聞こえましたので、慌てて布団に潜り込みました。
だって、甲斐甲斐しい女と、尽くす女と思われたくないですから。

ガチャと、慣れた手付きで、何の合図もせずに貴方は玄関を開けたのです。

「よぅ」

玄関から丸見えになってしまう1Kの部屋ですから、私は布団から顔を出して、待ち焦がれていた姿を拝見し、しかし面倒臭そうにああと声を上げました。
それから、起き上がって部屋に上がり込む貴方を見上げます。
今日も気に入りの香水を付けていらっしゃるものですから、私の鼻にツンと何か、切なさの様なものが込み上げてきました。