「で、あっくんはなんの用事できたのかなー?」


もう一回聞くと、大人しく口を開く。


「…今週の金曜日に兄貴来るんだって」



"兄貴"と聞いてあたしはコップを落としそうになった。



「へ?!ハルがくるん!?」




「なにその反応…」




むっとした顔であたしを見て。
そんなことはどうでもいい。
秋斗の兄、遥希(ハルキ)は、大学卒業してすぐに海外へ飛んだ。
最後に会ったのは、日本を断つ前。
あたしが高校1の冬だった。


「や、別に…」


遥希はあたしにとって初恋だったから、その名前を聞くだけで動揺してしまう。
さすがに今は何とも思ってはないけど。


コップを秋斗に渡す。


「何でまた急に?」


「サンキュ。や、それがわかんねーんだわ」

「ふぅん?アキ聞いてないん??」


「なんも聞いてねぇ」


「そっか」


オレンジジュースを飲み干し、にかっと笑いながらあたしを見て



「よし、じゃあ俺バイト行ってくるわ!!」


「え?バイト始めたん??」


「やってみたいバイトがあったからさ!じゃな!!」


急いで玄関に向かうのを見送って。


「目冴えた…テレビでも見よかな…」


独り呟き、ソファーに座りテレビをつけた。