「彩乃?」



不意に呼びかけられて、俯いていた顔を上げると樹先輩が私を見ていて。



「俺、お前が好きかも」



どうして今なのか、まったくわからない樹先輩の告白。



家に帰る途中の大通りの歩道。



夕刻の街路樹から聞こえるのは蝉の五月蠅い声。



立ち止まって私を見つめる樹先輩の瞳が微かに揺れる。



「言っておかないといけない気がして……。思ったことは、思った時に言っておかねえといけないんじゃねえかと思って……」



そう、人生は永遠ではない。



人の命は、いつか必ず終わりがくる。



伝えたいこと、聞いて欲しいこと、話したいことはその時口にしないと、もしかしたら伝えられないまま終わるかもしれない。