「行って来まーす!」
私は元気よく家を出た。
前の方には先を歩く朝飛の姿があった。
「朝飛ー!!」
大声で叫んで朝飛を呼ぶ。
「・・・」
朝飛はこっちに振り向いたけど、首をかしげて何もなかったかのように首を戻した。
・・・? 何で?
「朝飛・・・?」
いくら呼んでも元気に挨拶してくれる朝飛を見ることはできなかった。
私は走って朝飛に追いついた。
「朝飛・・・どうしたのっ?」
すると朝飛は、

「・・・誰?」

「え・・・・」
胸に何かが刺さるような痛み。
誰って・・・私のこと・・・忘れてる?
もしかして・・・病気が原因なの?
「私・・・玲だよ? 私のことがわからないの?」
「すみません、急ぐので」
朝飛はボソッと言ってスタスタと歩いて行ってしまった。

それから数十分歩いて、教室に入る。
ガラッ・・・
「おう!! 玲~ 何で今日待ち合わせの場所に居なかったんだよ!?」
「は・・・?」
私のこと・・・分かってる?
「あははは、ごめーん!! 寝坊した♪」
「やっぱりか~。 早く起きれよー?(笑)」


・・・辛い。
朝飛に本当のことが言えない。 怖い・・・。
これから私のこと、もっと分からなくなっていくの?
病気がこのまま進行したら、どうなるの?
もう、何もかもが怖い。
朝飛が私のもとから居なくなる・・・。
考えたくもないよっ・・・。





あの時ね、私・・・本当に辛かった。
自分のことを忘れていた朝飛の瞳は、暗かった。 冷たかった。 いつもと違っていた。 他人を見るような瞳だった。
あの時だけ、私は朝飛にとって「他人」になっていたんだよね。
正直言うと悲しいし、辛いし、怖いし、苦しい。
でも・・・朝飛から離れようなんて思わない。
こんなにも朝飛のことを愛しているから。
朝飛のことが大好きなんだよ?
朝飛が朝飛でなくなっていくのを見てるのは、涙が溢れるくらいに辛いこと。

私はあの日、そんな経験をしていたんだよね。