達郎はほう、と意外そうな顔をした後、とんでもないことを言った。

「奥様は山の事故で御両親を亡くされたそうですが、山に住むことに抵抗はないんですか」

ぶしつけにナニ訊いとんじゃ、コイツは!

あたしは心の中で冷や汗をかいたが、達郎の顔は真剣そのもの。

哲夫も達郎の発言の意図がわからなかったようで、戸惑っていた。

「ま、まぁ抵抗はあったようですが…」

そう言って傍らの妻に目をやる。

「もう、30年も前の話ですから」

光子は夫より幾分かは落ち着いていた。

「これを機に、両親が眠る土地に戻るのもいいかなと思ったんです」

「そうでしたか。でも、お隣の仁藤さんはさびしがるでしょうね」

「仁藤さんには本当にお世話になりました」

「事件の前日も仁藤さんのお宅に伺っていたそうですが?」

「はい」

「仁藤さんは光子さんの笑い声が印象的だったと言ってました。ところで…」

ここで達郎は哲夫に視線を戻した。