「店をたたもうかと思いまして」

哲夫は消え入りそうな声で言った。

「この町は見ての通り田舎に毛の生えたような町ですから、噂が広まりやすいんですよ」

面と向かって何かを言われたわけではない。

しかし、物見高い視線は感じる。

集まっている人たちを見ると、自分たちのことを話しているのではと疑念が生じる。

人が皆、好奇心の塊となってこちらにやって来る気がする。

そうなってしまうともう、客商売はできない。

「店をたたむだけではなく、この土地を離れようかとも思っています」

哲夫は移住先として、L県の名前を挙げた。

「L県というと、山陰地方ですね」

それまでじっと黙って話を聞いていた達郎が、口を開いた。

「奥様は山陰地方の出身と伺いましたが」

「はい。L県は妻の出身地です」

光子の親戚を頼り、そこへ腰を落ち着けるつもりだという。

「ここよりもはるかに田舎らしいです。山の中の村だそうですよ」