麻子の隣。
いつもは俺がいるはずの場所。
そこに田原が、いた。
田原が何か言う。
麻子が笑う。
僅かに残った太陽の光が、彼女の鼻筋に影を作ってその笑顔を浮き彫りにした。
先ほどまでは確かに色のついていたはずの世界は、あっという間にモノクロに変わる。
荒い八ミリ映画のフィルムのような情景。
俺のその視界で上映されるのは、その彼女と彼が、二人で楽しそうに帰っていく姿だった。
…麻子と、田原が。
並んで歩く、姿だった。
足元から、ジワジワと侵食するように競り上がる…とりとめのない、何か。
俺はまるで、その場にはりついたかのように。
…足が棒になったように、
…心が鉛になったように、
一歩も、動けなかった。