俺は『バスケバカ』だから。


翔太にも滅多に負けないし、卒業していった先輩にだって負けなかった。




…それでも、今まで一度も親父に勝てたことはなかったんだ。



1on1の後、息をきらして悔しがるのはいつも俺。

その度に、親父は俺の頭を一回こづいてこう言った。



『まだまだだな』




悔しいけれど、そのゴツい手のひらも、余裕の笑みも。やっぱりかっこよくて、まだまだ叶わないな、と思わされるのだった。





ベッドに放りあげた身体。

スプリングがギシリと軋み、俺の体を包み込む。

軽くまどろみそうになる、そんな中で微かに聞こえた玄関のチャイム音。



─親父が、帰ってきた。



夜9時過ぎのチャイム音は、まるで徒競走のピストル。

ベッドに沈んでいた身体を跳ね起こし、弾丸並みの速さで大袈裟な音と共に階段をかけ降りた。