麻子に習って、俺も歩くのを止める。
「うん。……親父には、かなわねぇんだ」
麻子は、そのままじっと、遠くを見つめる俺を見ていた。
…空が赤い。
俺たちを包む、夕焼けの色は変わらないんだなと思った。
握り締めた手のひらに力を込める。
「俺、いつか親父のような男に、なりたいんだ」
…親父の話ですら、誰にも言ったことがなかった。
親父の話は、俺にとって、『特別』だったから。
ましてやこんな恥ずかしいセリフなんて、言ったことがなかったんだ…
麻子以外の、
誰にも。
「俺…いつか、親父を、越えたい」
「…うん」
「…守りたいものを、守れる、男になりたい」
「…うん」
そんな恥ずかしいセリフを言う俺の隣で、麻子はただ、優しい笑みを浮かべて…ゆっくりと、深くうなずいた。
いつもと変わらない空。
いつもと変わらない帰り道。
夕焼けの光が優しく、俺たちだけを、包んでいた。