起きていても、寝ていても、見えるのは…暗闇だけ。





時は過ぎていく。



俺たち一家に、風穴を開けたまま……





□□





「元也!ご飯よ!」


階段の下から、母さんの声。


重いまぶたを擦りながら、身体を引きずるように階段を降り、居間の食卓に座る。


俺の目の前には、鮭や卵焼き、味噌汁と定番の朝食が並んでいた。


「…いただきます」


母さんの食器を洗う水音だけが、居間に響いている。



寝起きだからか、あまり味を感じない。

そんな俺の舌に包まれて、少し焦げた卵焼きが俺の中へと入っていった。








…あの日から、母さんと俺は、あまり話さなくなった。










二人でいると…三人でいたことを、思い出してしまうから。



…俺と、母さんと……そして親父と──三人で、笑って過ごした日々を、思い出してしまうから。





記憶の一ページにしてしまうにはあまりにも大きすぎた、親父の存在。



会話なく、食卓につく俺と母さんの隣には、


青い、少し色褪せた座布団をしいてある空席が…


…一つだけ、あった。