…焦げ茶色のバスケットボール。
「これ、俺たちの…最後の試合で使った…ボールなんだ」
赤津さんのボールを掴む手に、ギュっと力が入った。
「アイツを送り出す時に…アイツの隣で一緒に、送ってやって欲しい」
赤津さんは、まだ赤く滲んでいる…真剣な目で俺にそう言った。
─強い、眼差しだった。
「…わかりました」
『親父のボール』が、俺の手のひらに収まる。
ジンワリとした重みが、皮膚をついた。
「…ありがとう」
赤津さんは、再び少し親父に似た優しい笑みを浮かべた。赤津さんの後ろにいるみんなも、それぞれが深々と…礼をした。
「…君は本当に…敦也によく似ているよ」
赤津さんたちはそう言うと、母さんにも声を掛けてから、俺たちに背を向けてゆっくりと…去っていった。
まだハンカチを口にあてたまま、涙がおさまらない母さんと、その場に立ち尽くす俺。
そして、『親父のボール』を…残して。