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俺はどうしてこんな所にいるのだろう。
「この度は本当にご臨終様です…」
はらはらと涙を落とす母さんと、虚ろな目をして棒立ちをしている俺の前を、黒い服を着た人々が、似たようなことを言っては通りすぎていく。
母さんがそれらに頭を下げる度に、俺も少し遅れてそれに続いた。
…俺はどうしてこんなところにいるんだろう。
周りはどこもかしこもモノクロの世界。
黒い。暗い世界。
俺の手には、穏やかな笑みを浮かべ、きっちりと額の中に収まった親父がいる。
相変わらず絶え間ない流れのようにやってくる黒い集団の中。自分の置かれた状況を今だに理解できていない俺は…ただただ、母に習って頭を下げるだけだった。
時間の止まった世界。
手の中の親父は、変わらぬ優しい笑みを…浮かべていた。