お母さん、と心の中で天国に呼びかける。

なあに?と聞こえた気がする。


ねえ僕は、あの人を許してもいい?

すぐには無理かもしれないけれど。


記憶の片すみに残る、可愛がられたわずかな記憶

……たとえば

本棚の奥にしまわれたアルバムのような、


そんなささいな思い出を信じて、

もう一度、
少しずつ――。




「……バカ桜子」


鼻をすすりながら、僕は桜子をさらに強く抱きしめた。


なあに?と桜子が言った。


「泣き虫お兄ちゃんだね」

「うるさい。バカ」



温もりが、次から次にあふれてくる。


外が雨で、よかった。

降り続ける雨音が、部屋をやさしく満たしていた。






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