父はサラリーマンだった。
それ以外、言い様がない。
朝起きて歯を磨き、
朝食は食べずコーヒーだけを口にして、
ネクタイを結び出社し、
夜と共に帰宅する。
その口は家族との会話のためにあるのではなく、
あくまで食べ物を取り入れるためだけの器官で、
黙々と食事や入浴をすませると、壁の方を向いて眠りにつく。
そんな一日をビデオで撮影し、
365回巻き戻しては再生すると、
彼の一年が出来上がる。
父は単調な毎日を繰り返すことだけで歳を重ねた。
僕は――そんな父と、会話らしき会話をした事があっただろうか。
父の革靴が玄関にある時は、子供心に息苦しさを感じるようになっていた。
男物の黒くて大きな革靴は、憂鬱のあかし。
だから今も僕は、スーツのときですらスニーカーしか履かないし、これからもそうするつもりだ。
つまり、思い出すだけで息がつまるような子供時代だったのだ。