「すみません……」


僕はタバコをポケットにしまって、小さな声であやまる。


しかしよく考えてみれば、僕があやまる必要なんかこれっぽっちもないのだけれど。


喫煙スペースに座っておきながら煙に文句をつける彼女は、

焼肉屋に来て食べるものがないとぼやくベジタリアンみたいだった。


「ねえ、私のこと勝手な人間だって思ってるでしょ」

「えっ?」


やわらかそうな髪をかきあげながら、彼女は顔を上げる。


目が合って、僕はなぜか、息を止めた。


上目づかいの強気な瞳は、落ち葉を光に透かしたような淡いブラウンで、

彼女のもつ髪の色とよく似合っていた。


「そうだよ、私、勝手だもん」

「はあ……」

「煙が嫌いならこんな所に座らなきゃいいの、わかってる。
けどね、今日は、とことん勝手な人間になりたい気分だから」

「はあ……」

「わかんないよね、いきなりこんなこと言っても」


そうつぶやいて彼女はため息をついた。


“がっくり”。


そんな言葉がピッタリ当てはまりそうな表情だ。


「あのさ……」

僕はポケットの中のタバコを弄びながら言った。

「俺でよければ、話してよ。聞くから」

「……」

「俺も、今は誰かと話していたいんだ」