けっきょく
家路についたのは朝の4時半だった。
かろうじて空が白み始める前に帰れて、よかった。
玄関の前までたどりついたとき、
無意識にほっと息をついていることに僕は気づく。
外で色々あればあるほど家が恋しくなるなんて、最近初めて知った。
玄関の鍵を開け、なるべく音を立てないようにそろりと入る。
二階で眠っている桜子を起こさないように、
そっと――
「あ、おかえりー」
居間から声がして、続いてひょこっと顔が現れた。
「桜子……起きてたの?」
「うん。遅かったねえ」
大きめのスウェットの裾を引きずりながら、桜子が玄関まで駆けつけてくる。
その姿は無邪気な子供といった感じだ。
さっきまで街で見ていた光景とのあまりのギャップに、僕は少し戸惑った。
「飲みに行ってたの?」
「あ、うん。店のスタッフの……ほら、コバって奴がいるっていっただろ?
あいつと居酒屋行ってたんだ、ふたりで」
あれ?
言ったあとで、自分のとっさの嘘に気づく。
“ふたりで”って……。
「そっかあ。それで遅かったんだね」
「う、うん。……桜子はやけに早起きだな」
違うよ、と桜子は笑顔を見せた。
「早起きじゃなくて、ずっと起きてたの」
「え?なんで?」
「そんなの決ってるでしょ。拓人を待ってたのよ」
「……」