彼女のまわりを
白い煙がゆるやかに揺れている。


美しい仕草でタバコを吸う女の子だった。


「きれいな色だね」


ミドリの指先を見ながら僕は言った。


彼女の爪には真っ赤なマニキュアが塗られ、
安っぽい照明の下でひかえめに光っていた。


「ありがとう。私、赤が好きなのよ」

「うん、よく似合ってる」

「だのに時々、“ミドリのくせに赤が好きなのか?”
なんてつまんないこと言う男がいるの。
ちなみに私を囲ってる若社長もそのひとり」


それはつまんないね、
と僕はあいづちを打った。


「でしょ?」


ミドリが僕の肩に手を置いて嬉しそうに言う。

よく見ると目のふちが充血していた。

少し酔っているのかもしれない。


「たぶん緑以外の色が好きな日本中のミドリさんが、同じことばっか言われすぎてウンザリしてるわよ。
ひとりにつき最低5回は言われてるはずよ」


そうだろうね、
と僕はもう一度あいづちを打った。


彼女はまた嬉しそうに微笑んで、

僕の肩にコテンと頭を乗せた。