湿気のにおいが一瞬鼻を突き、
そしてたくさんの段ボール箱が目に入った。
いつかもしたのと同じように、僕はそっと箱を開けてみる。
桜子が着ていた洋服、たくさん撮った写真、
そしてあのスケッチブックが、長い眠りから目覚める。
誘われるように表紙を開いてみて――
なつかしさで、胸が詰まりそうになった。
そこにあった最初の絵は、僕の寝顔だった。
初めて想いが通じ合った日の夜、彼女がこっそりデッサンした記念すべき一枚目。
……次の朝僕が勝手に絵を見たら、彼女は恥ずかしがってスケッチブックを奪ったっけ。
それにしても、なんて顔をして僕は眠っているんだろう。
幸せそうで、あまりに無防備で……。
涙をこらえながら、僕はページをめくった。
他は僕の知らない絵ばかりだった。
ベランダの鳥の巣や、玄関から見える長屋の風景、僕たちの寝室。
いったい彼女はいつの間に、こんな何気ない景色を絵の中におさめていたのか。
まるで、いつか来る終幕を、すでに見据えていたかのように――。
そしてスケッチブックの中間あたりから、様子が変わった。