いったん唇を割って出た言葉は、なかなか止まってくれなかった。
自分でも何を言っているのか分からなかった。
けれど、叔父の前で、そして桜子のお墓の前で、
僕は思うままを口にしていた。
「俺だって、失うのは怖いよ」
僕の襟足のあたりにやさしく触れて、叔父はそう言った。
「いつも失うことにおびえてる。
けど、それでいいんじゃないか?
失う怖さを知ってるからこそ、大切にすることも知っているんだ」
叔父は真っ赤に充血した目で、僕に微笑んだ。
「もう、20年だ。
そろそろ自分の傷を、認めてみてもいい頃だろう――?」
時の止まった空間を、想像していた。
桜子の面影をそこかしこに感じるんじゃないかと。
けれど数年ぶりに訪れた長屋は、
隼人がひとりで暮らしていた時の空気にすっかり変わっていた。
それでも、食器棚はあの頃のままだった。
テレビの位置も、毛足の長いカーペットも、同じだった。
探そうと思えばいくらでも、僕はこの部屋で彼女を見つけることができた。
居間からキッチンに目をやる。
音程のずれた鼻歌を口ずさみながら、料理をする彼女の後ろ姿が、今にも現れそうな気がする。
僕は深呼吸をして、押入れを開けた。