死んでしまったということ

――それはただ会えなくなるのとは、わけが違う。


君は、もういない。


あの白い病室にも、

花火を見た河川敷にも、

桜が咲く公園にも。


たとえば世界の裏側まで僕が探しに行ったとしても、

もう二度と君を見つけることはない。


桜子の存在が、桜子そのものが、

永久に消えて世界からなくなったということ。


それは雪が溶けるのと同じくらい、あっさりと、あまりに儚かった。



「……あの長屋が、取り壊されることになったらしい」


叔父はお墓の前で立ち上がり、突然そう言った。


「ずっと帰ってないんだろう?隼人も出て行って空き家状態だ。
最後に一度、行ってみろよ。
――桜子の物も、置いたままのはずだから」


胸が騒いだ。

僕の心の中で、何か変化が起きていた。


彼女と過ごしたあの部屋が、なくなってしまう――。


いっそ早く取り壊してほしいと、願ったこともあったけれど。


「俺は……」


白い息を吐いて僕は言った。


「俺は――失うのが怖い。とても怖いんです」

「……」

「大切なものをこれ以上失うのが、怖くてたまらないんです」