僕は義広の方を見て、唇の片側を上げる。
「もう、2年以上……隼人には会ってないよ」
2年なんてあっという間だった。
20年の月日ですら、僕にとっては何の意味も持たなかったのだから。
義広はシワの目立つ目元を細めて、外の景色を見た。
「天気、悪いなあ」
僕もつられて空を見る。
分厚いグレーの雲が、ビルの屋上にぶつかりそうなほど、低く空を覆っていた。
「明日あたり、雪が降るかもな」
義広の言葉を聞きながら、僕は静かに瞳を閉じた。
隼人が物心ついてきた頃、
どうして自分たちの名字が違うのか、尋ねてきたことがある。
「俺は、隼人の叔父さんなんだ。
本当のお父さんとお母さんは、もう死んでしまったんだよ」
僕はとっさにそう答えた。
それから隼人は僕のことを、叔父さん、と呼ぶようになった。
どうして嘘をついたのか。
僕の父も僕に対して、真実を話さなかった。
けれどそれは、我が子を傷つけまいという親心から。
僕の場合は――違う。
僕にあったのは、ただの逃避。
自分の傷をえぐり返さないよう、逃げていただけだった。
成長するにつれて道を踏み外すようになった息子に、
僕は手を差し伸べることも、完全に解放してあげることもせず、
ただ一定の距離から傍観していた。