20年が過ぎた。

桜子がこの世からいなくなって、20年。


彼女は二十歳を迎える前に死んだというのに、

僕はいつの間にかその倍以上を生きてしまった。


「隼人くんとは、連絡をとってるのか?」


義広の問いかけに僕は首を振る。


――“大塚隼人”。


愛する人が残した、たったひとつの命。


「男の子がいいな」と言った桜子の願いは叶った。

けれど「拓人に似た男の子が」という希望には沿わなかった。


僕から一文字とって“隼人”と名づけたその赤ちゃんは、

誰もが息を呑むくらい、桜子にそっくりだったのだ。



義広はもう一度深いため息を吐いて、僕に問う。


「まったく会ってないのか?」

「……ああ」



彼女を失った僕は、生まれたばかりの息子を連れてあの長屋に戻った。

それはちっとも現実感を伴わない、ただ過ぎてゆくだけの日々だった。


一粒の涙も流さなかった、と後に叔父は言った。

僕は桜子を失くしてしまったというのに、涙すら見せなかったらしい。


すべての認識が欠けていた。


自分が泣いていないことも、
息子が日に日に成長していくことも、

そしてそこに桜子がいないことも。


僕は何ひとつ、認識できずにいた。


そんな僕を心配して色々世話を焼いてくれたのは、叔父だ。


けれど隼人が2歳になる頃、叔父は仕事の都合で遠くに引越してしまった。