足の先が冷たい……。

布団を被っているはずなのに。


消毒液のにおい。

カチャ、カチャという金属的な音。


僕は眠りから覚める前に、自分の今いる場所を把握する。


目を開けるのが嫌だ。


病院は、大嫌いなんだ――



「拓人、気づいたか?」


視界の右斜め上の方に、見慣れた顔が現れる。


「……またお前か。義広」

「またとは何だよ」


僕は視線をそらしてつぶやく。


「また……俺のこと助けたのかよ」


――急性アルコール中毒。


もはや僕の生活の一部みたいに、定期的に救急車で運ばれては、この病名を告げられる。


義広は僕の傍らに座り、深いため息をついた。


「お前……マジでそのうち死ぬぞ」

「医者が簡単に死ぬとか言うな」

「心配してるんだよ。ちょっとはお前も自分の体を心配しろよ」


何度繰り返してきたかわからない、このやりとり。


けれど、それでも懲りずに心配してくれるこいつは、やはり立派な医者だと思う。


「大丈夫だよ。
俺は、酒の飲みすぎじゃ死なないから」

「はあ?」


「たぶん……もうひとつの方で死ぬんだ」


僕の言葉に義広は、

白髪混じりの頭を傾けて、不思議そうな顔をした。