「おっ、拓人来たか」
病院の受付の所で義広に会った。
「来たか、じゃないだろ。あんた大学は?」
「今日はもう終わったんだよ」
「ふーん」
最近顔を合わす機会が増えたせいか、義広と僕はかなり打ち解けてきたように思う。
彼と他愛ない話をすることが、病院にくる楽しみのひとつだったりもする。
桜子の名前が呼ばれた。
僕らは立ち上がり、「じゃあ」と義広に手を振った。
「こんにちは、大塚さん」
「こんにちは、先生」
その人は今日もシワひとつない真っ白の白衣を着て、僕たちに温和な笑顔を見せる。
以前桜子が倒れて運ばれたとき、義広と一緒に病室にいた、若い医師だ。
「今は……26週目ですね」
そう言ってカルテに目を通す医師の胸元には、“山野”という名札がついている。
彼は、義広の義兄だ。