お父さんは僕を愛していたし、僕もお父さんを愛していた。
あまりにも当たり前で、
なのにずっと見失っていたもの。
きっと彼は色んなものを守ろうとするあまり、ほんの少し道を間違ってしまっただけ。
だからといって全て許せるわけじゃないけれど、
これは父の不器用な愛情が招いた、運命の絡み合いだったのだと思う。
「私が知っているのはここまでです」
秋山さんが言った。
「どうか、今の幸せを大切に……元気な赤ちゃんを産んでください」
僕たちは手をつないだまま、深く深く頭を下げた。
――お腹の子供が生まれたら、3人でお墓参りに行こうと思う。
きっとお父さんも喜んでくれるだろう。
血のつながった僕を当たり前に愛し、
血のつながりを超えて桜子を愛してくれた父。
そして今桜子のお腹には、次なる命が育まれている。
“血”なんて、
まったく厄介で面倒なものだ。
ただ体に流れているもの。
なのに、確かに人を結びつける、
熱いもの――