「もっと家族を大切にしてあげたかった。
けれど自分は弱い人間だから、悩めば悩むほど悪い方向へ行ってしまった…って、
そう言って泣いてた」


僕は相槌を打つことすらできず、ただ声に耳をかたむける。


テーブルの下の手が、ふいに温かくなった。

桜子が、僕の手をしっかりと握っていた。


「私ね、大塚さんに訊いたの。
子供たちには、一生隠すの?真実を話してあげないの?ってね。
そしたら彼、こう答えたのよ」


秋山さんは僕と桜子を交互に見つめて、言った。


「息子に話せばきっとあいつは、自分のせいで母に不幸な結婚をさせたと思うだろう。

娘はきっと、自分のせいで他人の家庭を壊したのだと思うだろう。

ふたりとも優しい子だから、自分を責めて苦しんでしまう。

だから、真実は隠し通すつもりだって。

愛するふたりの子供を、これ以上傷つけたくはないからって――…」


目頭が熱くなるのがわかった。

どうしようもなく温かいものがこみあげた。


どんなに最低な父親でも、僕にとってはたったひとりのお父さんだった。