昼前の駅は閑散としていた。


改札越しに見える線路の小石が、太陽の光を浴びてきらきらと光っている。


僕は財布を取り出し、券売機に硬貨を一枚ずつ落とす。


百円、二百円……


料金を確認し、そしてボタンを押そうとしたとき


「――えっ」


僕の人差し指の横を、白い手がすっと追い越した。


チャリン。


百円玉一枚と、
十円玉が数枚、

そして僕が買おうとしていたのとは別の切符が、受け取り口に出てくる。


「……助かったあ!拓人がいて」


聞き覚えのある、少し鼻にかかった高い声がした。

その方向に僕は視線を落とす。


「桜子?!」


僕は面食らって、視線を券売機に戻した。


桜子の小さな爪の先が、しっかりとボタンを押していた。


「ごめんなさい、お財布に50円しか入ってなかったの。
切符代、貸してくれる?」


貸してくれる?って……、もう押してるだろ。


そんな内心のツッコミとは裏腹に


「あ、うん。もちろん」

「よかったあ。ありがとう、拓人」

「いえいえ」


彼女につられ、僕まで笑顔になってしまった。