「私は、浩二を裏切ったリナがどうしても許せなかった。
だからリナの出産後、私たちは絶交したんです。
今となれば少し恥ずかしい話だけど、そのとき私は、リナや大塚さんをひどく罵ったわ」


過去を悔いるとき誰もがそうするように、

秋山さんは背中を丸めて声をかすれさせた。


「そのまま月日が流れたの。
私は結婚し子供もできて、リナたちのことは記憶からほぼ消えたはずだった。

……なのに、15年後のある日、街でばったり大塚さんに会ってしまった」


「……」


「すごく懐かしくってね。
正直、リナや子供のことが聞きたかった。
私は彼を喫茶店に誘って、テーブル越しに向かい合ったのよ」


ちょうど今の私とあなたみたいに、と彼女は言った。


「大塚さんがリナと再婚していたことを、そのとき初めて知ったわ。
彼は私にすべてを話してくれた。
きっと、懺悔する相手が必要だったのね」


そして秋山さんは、すっと背筋を伸ばして僕を見た。

現在と過去の間をさまようような、不思議な瞳だった。



「お父さん、泣いてたわよ。

息子や前の奥さんには、本当に申し訳ないことをしたって」



不覚にも、胸が熱くなった。


……今さらそんなこと聞いても、どうしようもないのに。